雑誌【不動産鑑定10月号】に弊社の不動産鑑定士の記事が掲載されています!!

芝田 優巳(しばた ゆうじ)
(株)シノケングループ 経営企画部 海外事業室課長。
不動産鑑定士、税理士。上海在任歴4年。
早稲田大学大学院商学研究科修了。
野村不動産(株)でオフィスリーシング、都市開発コンサルティングなど、あおぞら銀行(旧日本債権信用銀行)で不動産鑑定評価、不動産投資分析、企業財務分析などを行った後、2006年から上海で中国不動産ビジネスに関わる。
中国では、不動産コンサルティング会社で不動産市場調査、鑑定評価、不動産投資コンサルティング業務、JVのアレンジメントなどを経験。昨年、(株)シノケングループに入社し、中国不動産投資コンサルティングなどを行う一方、中国人向け日本不動産投資コンサルティング業務も行うなど、現在は、日中両国の不動産ビジネスに携わっている。(記事に関するお問合せ・感想・取り上げて欲しい話題、中国ビジネスに関するお問合せなど、y-shibata@shinoken.co.jp までご自由にご連絡ください。
上海通信10月号記事
未来都市(エコシティー)構想があるエリア
常に未来ビジョンを掲げる中国 
中国を例える際に、かつては、よく「世界の工場」とも言われていましたが、最近では、「世界の消費市場」などとも言われるようになっています。
中国は、未来を見据え、常にビジョンを描きながら発展してきています。中国の発展スピードは、世界の先進諸国と比べても非常に速いので、過去の中国から現在の中国の姿を把握するのではなく、未来の中国を見据えながら現在の中国を把握するという視点も重要になってくると思います。
今回は、かつて「世界の工場」と呼ばれた中国とはかけ離れた、エコシティーを目指すエリアについて紹介させていただきます。これまでにあまり想像できなかった方にとっては、中国の未来像から、現在の中国の都市をとらえる良い機会となるかもしれません。
未来の理想都市を目指す張江ハイテクパーク
 
現在開催されている上海万博のテーマである「Better City Better Life」という理念をいち早く取り入れ、実現を目指しているエリアがあります。張江高科技園区(Zhangjiang Gaoke Hightechnology Park。以下、張江ハイテクパークといいます。)というエリアです。
張江ハイテクパークは、1992年、環球金融中心(森ビルが開発した101階建てのオフィスビル)がある陸家嘴金融貿易区の東南(地下鉄2号線「陸家嘴」駅から、「張江高科」駅まで約15分)に創設された国家級ハイテクパークで、上海のシリコンバレーと呼ばれています。駅を中心に企業の研究所などが集まり、歩道には緑地が整備された広い道路に沿って近未来的な建物が建てられており、外観上も、シリコンバレーと呼ぶにふさわしいものです。張江ハイテクパークは、中国で最初にして最大の経済特区である浦東新区内にあり、浦東新区の4大重点開発エリアのひとつとなっています。
張江ハイテクパークでは、IC(集積回路)、バイオ医薬(バイオテクノロジーを駆使して製造する医薬品)、ソフトウエアが主産業と位置づけられています。エリア内には5,000以上の企業が進出し、就業者数は、約13万人にものぼります。
張江ハイテクパークは、25平方キロメートルという広大な敷地があり、ハイテク産業エリア、技術イノベーションエリア、科学研究教育エリア、生活エリアなど、機能別に区画されています。
また、企業の研究機関や大学を単に集積させるだけでなく、「産・学・研」を一体化し、最先端技術の発展基地を目指しているのにも特徴があります。張江ハイテクパーク内には、北京大学上海マイクロ電子研究院、精華大学情報学院上海マクロ電子センター、復旦大学国家モデルソフトウエア学院、復旦大学(張江)マイクロ電子研究院、中国医薬大学などが進出しています。
中国では、道路に名前が付けられていますが、張江ハイテクパーク内には、アインシュタイン通り(Aidisheng Road。中国語で愛迪生路)、ニュートン通り(Niudun Road。中国語で牛頓路)、ダーウィン通り(Daerwen Road。中国語で達尔文路)、キューリー通り(Juli Road。中国語で居里路)など、国内外で功績のあった著名な科学者の名前が付けられた通りも少なくありません。張江ハイテクパークからも、歴史に残る科学者(技術者)が誕生してもらいたいという政府の願いが込められているのだと思います。
転機となったIBMの進出
 
張江ハイテクパークには、世界を代表する企業が多数進出しています。
数年前でさえも、張江ハイテクパークはすでに15年以上の歴史を誇り、GE、マイクロソフト、ロッシュ、モトローラ、シンドラー、ハネウェルなどの欧米企業のほか、ソニー、松下、キリンビール、味の素、第一三共、資生堂などの日系企業や、中国最大のインターネットビジネスのプラットフォームである阿里巴巴(アリババ)が進出していました。
2008年に、IBMが、上海中心部にあった拠点を張江ハイテクパーク内に移転しましたが、このことは、張江ハイテクパークをさらに発展(進化)させる大きなきかっけとなりました。
移転前のIBMの拠点は、5~6,000平方メートル程度しかなく、すでに手狭となっていました。
IBMにとっても、中国は重大な戦略拠点で、将来、事業を拡大させることを前提に、移転先を探す必要がありました。上海中心部ではまとまった面積を確保することが困難であったため、必然的に、張江ハイテクパークなど、市中心部より少し離れた郊外を移転先の有力候補として検討することになりました。
IBMは、国家級ハイテクパークであり、国際的企業も多数進出する張江ハイテクパークに注目しましたが、同社は、交通インフラや商業施設の整備、ビジネス環境に物足りなさを感じ、張江ハイテクパークを管理する張江集団や浦東新区政府などに対し、これらの環境の更なる改善を要求しました。浦東新区政府などは、IBMの要求に応じることを約束し、IBMは、移転の決断をしました。張江集団のトップ(副社長)は感激し、「IBMが張江ハイテクパークに進出することは、我々にとって大きなチャンスでもあると同時に、大きな挑戦でもある」と発表し、これ以来、張江ハイテクパークの更なる発展が始まりました。
張江ハイテクパークの新しい発展戦略
張江ハイテクパークは、IBMに要求された項目を整備すること以外に、他のハイテクパークとの差別化を図るために、急速に“低炭素化”を進めることにしました。
張江ハイテクパークを訪れると、上海とは思えないほど緑が多く、空気も良く、涼しげな印象を受けます。街は整備され、道路は広く、歩道にはきれいに緑地帯が設けられており、照明灯はすべてLED灯が採用されるなど、“低炭素化”の試みを随所に見ることができます。
張江ハイテクパークが、環境保護、資源循環経済、清潔生産を提唱し、ハイテクパーク内の緑化や公共施設の設置、省エネルギー型建設などを進めてきた結果です。
計画では、年内(2010年)までに緑地を770ヘクタールまでに増やし、エリア内の緑化率を30%以上にし、その中に2つの湖、ひとつの主体公園、汚水・雨水の総合処理施設、緑地帯を保護する為のスプリンクラー施設、太陽エネルギー利用施設などを作ることになっています。
また、ハイテクパークでは、優秀な技術者の受入れにも力を入れてきました。
昨年、金融危機による就職難となり、失業者数が増加していた際には、1万戸規模の住宅を技術者に提供するとアナウンスし、優秀な技術者を集めようと試みました。計画では、今年末までに同様の人材マンションを建設し、17,000人の技術者の受入れを目指しています。
張江ハイテクパークが目覚しい発展を見せるなか、数年前から、張江ハイテクパークで働く男性は「張江男」と呼ばれるようになりました。張江男の一般的なイメージは、張江ハイテクパーク内の会社に勤務し、職場までは長時間をかけて通勤し、仕事も忙しい男性です。プライベートな時間が少ないために、ガールフレンドを見つけることもできず、また、異性にもあまり関心がないようにも見られていました。
あまり良い意味で使われることが多くなかった「張江男」も、ここに来て、違った意味で注目されているという記事が新聞に出ていました。記事によると、張江男の多くは、IT業界で働き、高学歴・高収入・高レベルなど四高である為ため、理想の結婚相手として人気が上昇しているというものでした。四高に目を付けた母親たちが「張江高科」駅や社員食堂などで、男性に娘のプロフィールを手渡しするなど、精力的に花婿探しをしているそうです。
低炭素化のシンボルLTRの開業
 
今年に入り、張江ハイテクパークの“低炭素化”を印象付けるニュースがありました。
ハイテクパーク内に、LRT(トランスロール。中国語では張江有軌電車)が開業したというニュースです。開業式には、上海市副市長や運営会社社長、ロール社社長などが出席し、盛大に開業セレモニーが行われました。
LRTの開業は、天津についで中国では2番目になります。LRTは、日本でも2005年に堺濱で開業に向け研究が進んでいましたが、導入には至りませんでした。LRTは、日本人にとってはあまり馴染みがありませんが、ヨーロッパでは広く運行されている電車です。
LRTは、「張江高科」駅から終点の「金秋路」駅までの全長9.2キロメートルを走行します。走行途中の停留所は15カ所あり、進出企業や研究機関、大学などを通り、ハイテクパーク内を横断します。列車のデザインは斬新で、各停留所にはLEDを使った照明、運行表示板、専用路には優先信号を装備するなど、景観にも環境にも配慮されたものになっています。
列車はフランス製(TRANSLORH3タイプ)で、ゴムタイヤ・ガイド方式が採用されています。このため、レールは1本しかなく、ゴムタイヤで一般道を走ります。最高時速は時速70キロですが、通常は、30~40キロ程度の運転です。実際に乗車してみると、静かで乗り心地は上々です。今年のLRT開業区間は第1期で、今後、第2期、3期と拡張され、最終的には総延長が約30キロメートルになることが予定されています。LRTは、一般車と違い排気ガスがなく騒音も極めて少ないので、新交通システムとして大いに期待されています。
2020年までの発展計画
今年、張江ハイテクパークのトップは、今後は、低炭素産業もハイテクパーク内の一大産業に加え、2020年までにエリア内の低炭素化を加速し、他のハイテクパークのモデル地区となることを高らかに宣言しました。
低炭素化(エコシティー化)は、環境先進国である日本やドイツの協力がなければなしえないことかもしれません。すでに多数が進出している日系企業にとっては、自国の最先端技術を生かす良い機会ともなるのではないでしょうか?
ドイツは、ハイテクパーク内にドイツセンター(German Centre)を設置しています。ドイツセンターには、多くのドイツ企業が入居しており、自社製品を展示しています。なかには、太陽光発電技術などをアピールすべく、環境関連製品もあり、目を引きます。自国の技術を他国に伝えるために、企業間で連携しているドイツの取組は、日系企業も参考にすべきかもしれません。
また、張江ハイテクパーク内には、新たな試みも行われています。
2008年、政府が主導となってアニメ産業の育成を進める一環として、「張江アニメバレー(中国語では、張江動漫谷)」の除幕式が行われました。中国では、国内でアニメ産業を育成する為に、ゴールデンタイムでのテレビ番組に外国製アニメを放映することを禁止していますが、アニメバレーの設立により、今後5~10年かけて、200あまりのアニメ関連産業の育成をハイテクパーク内で目指すというプロジェクトです。
今年の5月には、中国で初めてのアニメ博物館が、張江ハイテクパークの文化産業エリア内にオープンしました。張江アニメバレーの重要な施設として位置づけられ、「アニメの城」を目指して、入場者との相互体験の要素を多く取り入れた博物館となっています。博物館の建設は、5~6年先に浦東新区内にディズニーランドができることになっていることも影響している(「張江高科」駅から、ディズニーランド建設予定地最寄駅である「川沙」駅まで約15分)ようで、博物館内には、ディズニーランドのコーナーも設置されています。
文化・創造産業においては、ネットゲーム、漫画研究開発、映画・テレビという政府の重点発展分野で、既に全国トップとなっており、現在では、文化・創造産業は、張江ハイテクパークの主要産業のひとつに成長しています。
国務院(中国の最高行政機関。日本の内閣に相当します)は、2020年までに上海市を経済力と人民元の国際的地位に見合った国際金融センターに構築することを提起しています。
2020年は、上海市にとって区切りの年でもあるので、張江ハイテクパークが、低炭素化をキーワードにエコシティ化を進め、従来のIT、バイオ産業をより発展させ、独特の文化産業を創出する、上海でも極めてユニークなエリアとして成熟していることを期待して止みません。

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